サラームカフィ公式ブログ〜WEB自家焙煎教室〜

Salem Kaffee(サラームカフィ)の公式ブログです、焙煎理論・抽出理論・サンプルロースター設計を公開しています。

不定期Q&Aコーヒー豆に土埃はついているか?ダンパー操作は不要か?

皆様こんにちは!
最近薬を増やしてなんとかすこし動けるようになってきました!いつも暖かな励ましの言葉をありがとうございます!

 

今回は本の内容についていくつか疑問をいただいているのでお答えいたします。

 

Q.生豆の表面には産地の土埃がついているので生豆は洗わないと汚いのではないか?

 

A.

「生豆に土汚れがついているという誤った考えについて」

近年生豆の表面には産地の土埃がついているので生豆は洗わないと汚いと主張す方々がいらっしゃるようですが、

(元々 エチオピアのコーヒーセレモニーのように手鍋で煎ったり手網焙煎のために水で研ぐ焙煎方法があるのは私も承知しています、ですがエチオピア人も近代的な 焙煎機で焙煎する場合は豆を洗わないですイタリア人やドイツ人も)


生豆を水につけると色が出てきますがあれは土埃の色ではなく果肉の色です、品種ごとの果肉の色(赤とか黄色)が出ているだけで、その証拠にナチュラルのほうが多く色が出て、果肉を発酵させてこそぎ取るウォッシュドでは少ないです、そもそも生豆はパーチメント(銀杏の殻のような部分)から脱穀して選別して袋詰めするので全体にまんべんなく土埃をまぶす工程はありません、農家の生産団体も輸出公社も輸入商社もそのような工程があったら許さないでしょう、それにビニールシートぐらいどこにでも有ります。

もちろん洗った方が美味しいと感じる方々もいらっしゃるでしょうし本に書いたように私も特殊な洗浄をしてダブルローストで超深煎りにする美味しい名店を知っています。

しかしながら他人の店の豆や世話になっている生豆商社や農家の方々を侮辱するような泥のついた豆を扱っているなどという誤った情報を流すのは大変失礼だと思います。

 

それにもし土がついているというならどうしてそのようなものをお客さんに売っても良いと考えるのでしょうか?先ず商社に改善を要求するべきでしょう。

 

 

Q.ダンパー操作では排気量は対して変わらないので本に書いてあるような味の変化は起こせないのではないか?

 

A.以下のフジローヤルの公式サイトをご覧ください。

fuji-royal.jp

ダンパー 操作を使った焙煎はフジローヤル推奨です。

 

最近私が調べた限りでは日本の小型焙煎機についているダンパーの起源は戦前に日本や南北アメリカ大陸で普及していたアメリカ製のロイヤル焙煎機というものに由来するようです、ローヤル焙煎機は直火式焙煎機(直火式自体はイギリス産まれ)でひとつのモーターでドラムの回転と排気ファンを回す構造で、排気と冷却を一度にできないので切り替えるためにダンパーがついていたようです。

 

ダンパー操作で味を作ることで有名なカフェドランブルの故関口一郎氏の著書によると日本では戦前Burnsroastersなどのアメリカ製の焙煎機で(現代焙煎の父バーンズ氏が創業し現在もPROBAT傘下で大型のパンチングドラム式焙煎機を作っている、直火とは異なる珍しい形式)

BURNS B270R Feature (Imperial) | BURNS Industrial Coffee Roasters and Coffee Processing Systems - YouTube

 

ヨーロッパ式の深煎り(オランダやフランスのようなフレンチロースト、本来の意味での植民地での低品質のロブスタ豆を油がベットリとなるまで深煎りにする焙煎)にしていたのに違和感があったそうなのでその頃にはもう直火式で深煎りという昔ながらの日本の焙煎は始まっていたようです。

 

そして戦前から戦後にかけてアメリカ製の焙煎機に強く影響を受けた旧フジマシーンやラッキーコーヒーマシンのいわゆる「ブタ釜」が登場し経済成長とともに自家焙煎店が急成長したわけです。

 

その際に日本では排気ファンのモーターが独立して一重ドラム半熱風式が普及し、海外では二重ドラムの熱風式が普及して日本と海外の焙煎は別れていきましたが、現在もアメリカでは古い焙煎機の血を引く一重ドラム焙煎機のメーカーがいくつかあります例えばディートリヒですが、やはり手動ダンパーがファンの切り替え用に残っています。

 

そして面白いことにSan Franciscan Roaster社製の焙煎機は伝導熱と対流熱の両方を制御する能力を売りにしており手動ダンパーとインバーターによってドラムの回転と風力を焙煎中に変化させるそうです。

perfectdailygrind.com

これは関口氏が愛用していたフジローヤルやカフェバッハの田口氏が設計に関わったインバーター搭載の大和鉄工所のマイスターの設計思想と同じで、丁度生物が共通の祖先から枝分かれして同じ姿になる収斂進化のようなものであり、なんと前半の乾燥段階で風量を減らすところまで同じです、アメリカではSOAKという名前で前半の火力を弱め輻射熱(と伝導熱)に豆を「漬ける」つまり日本で言う蒸らしと同じ効果を狙った技術があるそうです。

https://millcityroasters.com/commercial-coffee-roaster-news/what-is-a-soak

 

さらに韓国台湾中国にもフジローヤルから影響を受けたメーカーがたくさんあるので日本のダンパーを利用した焙煎方法は海外にも広まっています。

 

これだけたくさんの人たちがダンパーを操作するのは風量を変化させる加水分解を即す焙煎で味が明白に変わるからです、詳しい化学的な理由は私の書籍の伝導熱強化焙煎の箇所をご参照下さい。

 

以上が返答となります。

 

最後に、実は最近私が誰かの弟子筋であると誤解されている方たちがいらっしゃるようで、とあるコーヒーコンサルタントの方にご迷惑おかけしないように明言しておきたいのですが、私今まで誰の元でも1日たりとも焙煎の修行をしたことは有りません。

 

フジローヤルの焙煎体験や工場に行って焙煎機の性能について色々聞いたことはありますが私の書籍の序文にある焙煎に関わる独自の3つの仮説はすべてインターネットとユーチューブで先輩方に学んだり、カフェ・バッハの田口氏を始めとする書籍や各分野の論文などで学び自分の焙煎機で赤外線放射温度計を使い計測した情報をもとに作り上げた仮説です。

 

とはいえもちろんリグニンやヘミセルロースの熱分解仮説はあくまで仮説であり、本職の化学系研究者の方でもなければ科学的な検証はできないので、歯がゆいですがここまでというところです。