サラームカフィ公式ブログ〜WEB自家焙煎教室〜

Salem Kaffee(サラームカフィ)の公式ブログです、焙煎理論・抽出理論・サンプルロースター設計を公開しています。

水研ぎ完煎ダンパー使わない派と国産焙煎機のルーツ

 

珈琲の本棚シリーズその❷

中野弘志著「コーヒー自家焙煎が分かる本」

 

日本の焙煎師の派閥に「水研ぎ完煎ダンパー使わない派」とでも言えばいいのでしょうか、そういう方たちがいらっしゃいます。

コーヒーコンサルタントの中野氏はその開祖とでも言うべき方で(水洗い焙煎水研ぎ焙煎はもっと前からあるそうなので不正確かもしれませんが)

その著書のなかで「焙煎は作業」「焙煎は一日体験で必ず解る」「完煎は一瞬」などたくさんの名言を書かれその言葉は弟子筋の方たちに語り継がれています。

 

本書は絶版になった旧著の抜粋 + エッセイで増補されたもので、昭和の頃のコーヒー業界の話が書かれていてとても面白いです。

 

中野氏の焙煎教室は1日で終わり、完全紹介制の超高品質生豆商社の横浜コーヒービーンズさんにご紹介いただけるそうです(どなたか実際に体験した方がいらっしゃったら ご感想お聞かせください)

 

とはいえ私は豆を水で洗って研いで天日で干すという焙煎には否定的です、

過剰な水分がメイラード反応を阻害することによるコク不足やいやな酸味や渋み残りなどのデメリットが大きいと感じます

 

また全ての豆に日本人が一番美味しいと感じる完煎(かんせん)という一瞬で終わる瞬間があるという考えも信じられません、もちろん焙煎の一つの指標としてならわかりますが、日本人男性の喫煙率が60%近くあったスペシャリティコーヒーもない時代の中野氏の定めた基準が今も日本人の味の基準と言えるのでしょうか?

 

そして最大の矛盾はそういう最大限の化学反応が起こる一瞬があるとするなら生豆を水研ぎ水洗いして天日で干したら天気によって毎回内部の水分量が変わってしまいますから見た目で同じ点で煎りあげたと思っても中身の味は毎回違ってしまいます、これは各種化学反応を水分が阻害したり過剰に引き起こしたりするからです。

 

それに水分の乾き具合のバラツキ(日に当たる部分と当たらない部分の差でしょう)が焼きムラになって現れてしまいます。

 

またフジローヤルが推奨までしているダンパーを前半閉じることによる伝導熱を活かした焙煎をなぜここまで否定されるのでしょうか?

 

ダンパーを途中で開閉する焙煎はフジローヤルだけでなくカフェ・ド・ランブルやカフェバッハなどの老舗やサンフランシスカンなどの海外メーカーも大成してきた焙煎方法です、焙煎前半に排気を弱くして伝導熱中心で焼くと水分の蒸発が抑えられ多糖類の加水分解が進みそこで生まれた少糖類がメイラード反応を起こしメラノイジン特有の甘さやコクが引き出される訳です。

 

このように疑問点の多い本ではありますが昭和の時代はこうだったんだろうなというように色々想像を働かせながら読むと大変示唆に富む良い本だと思います、

 

また私は中野氏のお弟子さんの店でダブルローストで水分を飛ばして超深煎りにする美味しい名店で飲んだこともあるので絶対に特定の焙煎法だけが良いとか悪いとかいうことはないとも思います。

 

 

「知られざる日本の焙煎機の起源!それはアメリカにあった!」

写真のそれが日本の焙煎機の祖先ロイヤル焙煎機です!

以下以前のブログ記事からの再掲です!

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Q.ダンパー操作では排気量は対して変わらないので本に書いてあるような味の変化は起こせないのではないか?

 

A.以下のフジローヤルの公式サイトをご覧ください。

fuji-royal.jp

 

最近私が調べた限りでは日本の小型焙煎機についているダンパーの起源は戦前に日本や南北アメリカ大陸で普及していたアメリカ製のロイヤル焙煎機というものに由来するようです、ローヤル焙煎機は直火式焙煎機(直火式自体はイギリス産まれ)でひとつのモーターでドラムの回転と排気ファンを回す構造で、排気と冷却を一度にできないので切り替えるためにダンパーがついていたようです。

 

ダンパー操作で味を作ることで有名なカフェドランブルの故関口一郎氏の著書によると日本では戦前Burnsroastersなどのアメリカ製の焙煎機で

(現代焙煎の父バーンズ氏が創業し現在もPROBAT傘下で大型のパンチングドラム式焙煎機を作っている、直火とは異なる珍しい形式)

BURNS B270R Feature (Imperial) | BURNS Industrial Coffee Roasters and Coffee Processing Systems - YouTube

 

ヨーロッパ式の深煎り(オランダやフランスのようなフレンチロースト、本来の意味での植民地での低品質のロブスタ豆を油がベットリとなるまで深煎りにする焙煎)にしていたのに違和感があったそうなのでその頃にはもう直火式で深煎りという昔ながらの日本の焙煎は始まっていたようです。

そして戦前から戦後にかけてアメリカ製の焙煎機に強く影響を受けた旧フジマシーンやラッキーコーヒーマシンのいわゆる「ブタ釜」が登場し経済成長とともに自家焙煎店が急成長したわけです。

 

その際に日本では排気ファンのモーターが独立して一重ドラム半熱風式が普及し、海外では二重ドラムの熱風式が普及して日本と海外の焙煎は別れていきましたが、現在もアメリカでは古い焙煎機の血を引く一重ドラム焙煎機のメーカーがいくつかあります例えばディートリヒですが、やはり手動ダンパーがファンの切り替え用に残っています。

そして面白いことにSan Franciscan Roaster社製の焙煎機は伝導熱と対流熱の両方を制御する能力を売りにしており手動ダンパーとインバーターによってドラムの回転と風力を焙煎中に変化させるそうです。

perfectdailygrind.com

これは関口氏が愛用していたフジローヤルやカフェバッハの田口氏が設計に関わったインバーター搭載の大和鉄工所のマイスターの設計思想と同じで、丁度生物が共通の祖先から枝分かれして同じ姿になる収斂進化のようなものであり、なんと前半の乾燥段階で風量を減らすところまで同じです、アメリカではSOAKという名前で前半の火力を弱め輻射熱(と伝導熱)に豆を「漬ける」つまり日本で言う蒸らしと同じ効果を狙った技術があるそうです。

https://millcityroasters.com/commercial-coffee-roaster-news/what-is-a-soak

 

さらに韓国台湾中国にもフジローヤルから影響を受けたメーカーがたくさんあるので日本のダンパーを利用した焙煎方法は海外にも広まっています。

 

これだけの国と地域の人たちがダンパーを操作するのは風量を変化させる加水分解を即す焙煎で味が明白に変わるからです、詳しい化学的な理由は私の焙煎マニュアルの伝導熱強化焙煎の箇所をご参照下さい。