サラームカフィ公式ブログ〜WEB自家焙煎教室〜

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サラームカフィの焙煎マニュアル第4版


⇩以下「サラームカフィの焙煎マニュアル」第4版日本語版を無料公開します

どうぞお役立てください。

 

また本書の姉妹本となる抽出編「プロも知らない美味しい珈琲の淹れ方〜コーヒーはマヨネーズ電池〜」2023年現在本ブログにて無料公開中です!⇩

https://salemkaffee.hatenablog.com/archive/2022/12/26:title]

 

サラームカフィの焙煎マニュアル 

初版 2022/01/13 第二版 2022/08/13 第三版 2022/09/07 第四版 2023/04/20

 

目次

 

0  序文

1  本書の趣旨

2  焙煎方法の概略

3  焙煎の進行

4  焙煎実務の一例

   国産半熱風式焙煎機の場合

5  温度計と豆温度の差

6  データ取りとプロファイル

   づくり

7  熱風式焙煎機の特徴

8  排気の調整

9  いろいろな焙煎法

10 焙煎失敗と対策

11 生豆について

12 焙煎豆の保存とブレンド

13 衛生管理と事故

14 機械

15 メーカー情報と参考資料

16 終わりに

 

0 序文

 本書では独自の仮説として

 

 珈琲豆は細胞壁構成成分の熱分解や溶融により180℃、200℃、220℃、230℃に達した丁度その時、通常そのうち2回ハゼ(最大3回)を起こす。

 

 焙煎機の伝導熱と対流熱の比率が変わると味がかわる。

 

 一重ドラム焙煎機と二重ドラム  焙煎機では焙煎と味が異なる

 

以上の事を主張します。




 1 本書の趣旨

 

 本書は私個人が自分自身に向けて書いた個人珈琲豆店向けの焙煎マニュアルです。

 

開墾、育種や土作り、苗作り、栽培、収穫から生成、輸送、焙煎、これらの工程で我々が関わるのは僅かに最後の焙煎と販売だけです、だからこそ我々はここまでの沢山の人達の努力を無駄にしないように、

珈琲に関わるすべての人たちの生活を向上できるように、特に実際に珈琲のほとんどを作っている農家の人たちが大麻、ケシ、カートKhat栽培に手を出さなくても暮らせるようにできる限り売れるものを作らなければいけません、本書の無料公開がその助けとなる事を祈っています。

 

※本書第4版からA4用紙印刷を前提としたページレイアウトをやめてウェブページとして作り直しました。

 

 

 2 焙煎方法の概略

 

 本書では先ず個人店向けの熱源がガス火の小型国産ドラム型半熱風式焙煎機を中心に、次に熱風式を例に焙煎の仕方をご説明します。

日本の分類では半熱風式はドラムからの伝導熱と熱風からの対流熱両方で豆に熱を加える方式で、

 

熱風式は熱風にたより豆に熱を与え、直火式は穴が空いたドラムで直接火から熱風を与えます、

 

ちなみに海外製では日本向けに名前は半熱風式となっていても実際は二重ドラムで伝導熱を遮断してある熱風式に近い二重ドラム型焙煎機が多いです。

 

国やメーカーによって熱風式の定義が異なり、日本では主に熱源が別のところにあるドラム式の間接熱風焙煎機と流動床式焙煎機をともに熱風式と呼びますが本書では対流熱による加熱に強く頼る二重ドラム焙煎機を熱風式と呼び伝導熱も重視した設計の国産機で多い一重ドラム焙煎機を半熱風式と呼びます。

 

各種方式はそれぞれ温度の上昇下降速度や焦げやすさや味が異なります。

 

焙煎で調節するものは豆側は投入量や水分量ですが、焙煎機側で調節できるのは焙煎機の火力、風力、時間であり、焙煎前にガス圧と風力をして所定の目安時間と温度上昇曲線

(ローストプロファイルや焙煎曲線Roasting curveやRoast grafと呼ばれる)を計画して、焙煎前に投入量と風力のバランスを決め、ガス圧調整に集中して焙煎します。



国産半熱風式の焙煎機ではガス圧と風量を変えて豆に当てる火力を調整する焙煎もできます、ただし手動で焙煎途中に排気弁を開閉して豆に与えるカロリーを安定させるのは難しく、手動では再現性は低いのでインバーター(周波数を変える電子機器ギーセンやマイスターに搭載)で排気モーターの回転数を制御する焙煎機に向く方法です、本書ではこれら2種類の焙煎を基本に説明します。

 

焙煎はヨットなど帆船の航海と似ていて、予め時間や速度の計画を立てて、測量し、計画との誤差を手動で連続的に調整して最後は計器ではなく目で確認しながら慎重にタイミンを計り目的地に到達します。

 

次に焙煎の大まかな流れを説明します、以下の図は焙煎機の温度計表示上の温度上昇曲線に重要な豆自体の温度を重ねた概念図です。




予め決めた投入温度に焙煎機が達したら豆を投入します、温度計は急激に下がり最低温度に達してそこから上昇させて焙煎の終了を豆が2度はじける1ハゼ、2ハゼを基準に判断します。

 

ハゼは豆の中からの蒸気やガス圧力が高まり加熱によって弱くなった細胞壁構成成分が特定の温度に到達した時にはじけることで計2回あり、1ハゼはパチパチ、2ハゼの音は半熱風がピチピチ、熱風式では1ハゼはブチブチ、2ハゼはボツボツと鳴りますが一粒づつすべての豆が鳴るわけではありません、

 

人によりハゼの定義は変わりますが本稿では最初の1粒が弾けてパチッと鳴ることをハゼと定義します。

 

また一番注意していただきたい点は温度計の温度は先端の金属部の温度を示しているだけなので豆自体の温度とは異なるということです(豆温度の測り方は後ほど説明します)

 

生豆を投入すると温度計の表示温度はぐんぐん下がり底を打ち温度計の表示上では底に達します、この最低温度(中点、Turning point)前後に豆自体の温度の上昇は100℃で水分が沸騰して気化熱で吸熱するため一時的に止まり、温度計の温度も上がりにくくなります、

 

また、最低温度までの時間と最初数分の温度計の上昇速度は機種ごと、個体差、設置環境、投入量により異なります、そのため焙煎前に最低温度からの一分ごとの温度上昇、焙煎終了時間、排気量と目標とする豆の仕上がりなどをあらかじめ計画しておきます。

 

だんだんとメイラード反応という化学反応が始まり、130℃で豆の内部の水分も沸騰して150℃前後で多糖類が加水分解してメイラード反応が強くなり170℃でショ糖がカラメル化して180℃で細胞壁のヘミセルロースが熱分解を始め、

リグニンが溶融することで200℃丁度で1ハゼが起こり、セルロースが熱分解して220℃丁度で2ハゼが起こります(本書では2ハゼが起こる220°c以降を深煎りと呼びます)

 

1ハゼ後に目標とする焙煎度に向けて数分間シワなく膨らませます、この時間帯は英語ではdevelopment Phaseやdevelopment timeとよばれこの数分間の温度上昇率は豆の味に大きく影響します、

 

深煎り前の通常の焙煎終了は2ハゼ手前で、頃合いはテストスプーン(豆さじ)で豆を見ながら決めます、最低温度から7ー10分前後で1ハゼ、そこから2〜5分で焙煎終了が途中で風力を調整しない場合の小型焙煎機での標準的な焙煎時間です、風力を調整する焙煎の場合は前半に風力を絞るので時間が伸びて20分以上かかることもよくあります。




 3 焙煎の進行

 

 下に2ハゼまでの「豆自体の温度」の上昇にともなう化学変化を一覧にしました、ただし、これらの温度は「豆の温度」であり「温度計の表示」はただ温度計の先端の温度を示しているだけなので常に実際の豆温度と差があることに注意してください、また操作については国産半熱風式を念頭に置いています、

 

後述の赤外線放射温度計による測定に基づく私の仮説ですが1ハゼはリグニンという物質が200℃で溶融することで起こります、

 

ハゼは水蒸気や化学反応によるガスで高まった圧力に特定の温度から溶融や分解する豆の細胞壁の物質が耐えられなくなって起こると考えられ、

これはポップコーンが形状や大きさに関わらず180℃でヘミセルロースの熱分解で爆発するのと同じです、

2ハゼも同じように セルロースの熱分解によって220℃で起きます。

 

 

 

・70℃以上

  ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸(少し渋みがある)の加水分解がゆっくりと始まり「酸っぱ不味い味」のもとである過剰なカフェ酸(かなり渋い味)キナ酸(酸っぱい味)フェルラ酸などが生成されはじめます、

 

様々な化学反応が始まり吸熱反応(水分の気化熱などの熱を奪う現象)を開始します。

 

・100℃

 

 ここで表面近くの自由水(分子の中で他の成分と結合している水分を結合水とよびますが、自由水はその逆に気化しやすく微生物にも利用される水分のこと)が沸騰することによって激しく吸熱するため一時的に100℃で温度の上昇が弱まるので火力を強めます、ここからショ糖など多糖類が酸性下で加水分解されてブドウ糖や果糖といった糖になり、

 

アミノ酸と共に加熱されておこるメイラード反応(糖とアミノ酸を加熱すると起こる様々な香りやコクを生み出す化学反応、常温でも起こるが温度が高いと急速に起こり醤油やすき焼きなどの香りコクを作る)が本格的に始まり果糖もキャラメル化を始めます

 

・130℃

 

 豆は外部と内部で30℃の差があると言われており豆内部の水分も100度を超えて沸騰を始め、1ハゼまでジメチルジスルフィドという成分、お茶で言う「覆い香」を強くした青海苔のような青臭さが出てきて豆は白っぽくやわらかくなりふくらみます、

 

白くなるのはポップコーンが白く見えるのと同じように糊化したデンプンの中から出てくる水蒸気が細かい気泡になって光を反射するためだと考えられます、まだ柔らかくなったことによる融解熱や熱分解や水の蒸発による吸熱反応が強いので場合により火力を強めます、そのあと恐らく自由水の蒸発が終わることにより一時的に豆が縮みます。

 

・150~160℃

 

 特に150℃から155℃で酸性下でのスクロース(ショ糖)やデンプンの加水分解から生まれるスクロースグルコースブドウ糖)の溶融と熱分解、脱水などの吸熱反応が起こり温度の上昇はゆるくなります場合により火力を調整してください、また160℃でスクロースグルコースキャラメル化(糖が熱で分解され酸化や重合して甘みを失い、酸や苦味を出す化学反応)します、

 

この温度帯に長くとどまると糖の分解やキャラメル化で味に影響があるので火力を強めます。恐らくデンプンもデキストリン、マルトース(麦芽糖)を経てグルコースまで分解されます、豆は単糖類のキャラメル化とメイラード反応との急速な同時進行が始まり恐らくデキストリンの色やキャラメル化で黄色くなり、

 

褐色のもとであるメラノイジンが生成され、副反応のストレッカー分解でピラジン(麦茶や焦げた醤油のような香ばしい香り)の生成もすすみ、豆も再び膨らみ始めます、

 

海外では投入からだいたいこの温度までをDrying phaseとよんで豆の乾燥を非常に重視して色や匂いで進行を判断する人が多いです、

 

私は150℃を温度調整する基準にしています。

 

・170〜180℃

 

 170℃からスクロースがキャラメル化を始め更に褐色になりスクロース=ショ糖はメイラード反応を起こさない)180℃で細胞壁のヘミセルロースが熱分解を始め結合水が放出されて圧力が高まり豆がふくらみはじめ水蒸気が多く出ます、

 

クロロゲン酸自体も褐変していき色付きながら様々な化学反応で圧力が上がりいっときさらに大きくふくらみその後豆が2回めの収縮をしてもっともシワが深くなります、糖の分解や脱水縮合で吸熱して温度上昇が鈍るので場合により火力を上げます

180℃以降メイラード反応とその副反応であるストレッカー分解から醤油やすき焼きのような甘い香りが生成されます。



・200℃(1ハゼ)

 

 豆の外側の殻状の部分が細胞壁のリグニンが溶融してヘミセルロースの熱分解でうまれる水蒸気と炭酸ガスの圧力に耐えられなくなり、

 

きっかり200℃丁度で1ハゼが起こります、これはポップコーンと全く同じ原理です

 

(ポップコーン用トウモロコシも大きさ硬さ形状に関係なく臨界温度180℃で弾け、銀杏、大豆、栗、ポン菓子もすべて180℃で弾けます、これは180℃で熱分解するヘミセルロースは植物の細胞壁で最も弱い鎖の環だからですが、熱風で焙煎する珈琲では乾燥が強く十分な水蒸気の圧力を得られないのでリグニンの溶融が必要なのです、これは曲げ木加工で180℃と200℃を境に木が曲がるのと同じです)

 

だいたい最初にひとつぶがパチンと弾け、その後しばらくおいて連続してパチパチなり始めますが、

 

本書ではこの一粒目にパチンとなった時を1ハゼと呼びます、1ハゼ中に激しい脱水縮合が起こり、いっとき気化熱で温度上昇が鈍くなるので1ハゼ前に火力を調整します、パチパチと連続してハゼ始めたら火力を弱め、1ハゼ開始から2ハゼまで2~5分ほどかけて豆をできる限り膨らませます、これをDevelopment Phaseと呼びます。

 

激しいメイラード反応でフラネオール(いちごやパイナップルの香りの元)などのフラノン類も生まれますが、ヘミセルロースの熱分解でフルフラールという物質も大量に生まれ、焼き立てのトーストや焼き栗の皮、クラフト紙のような匂いが強く出てきてます、

 

とはいえフルフラールは約162℃で沸騰するので、220℃寸前の焙煎終了時にはこの香りはほとんど無くなります、その前に他の匂いも発生するのでトースト臭もすき焼き臭も支配的では無くなり一度ぶどうパンのような匂いになってから、次の段階を迎えます、

 

つまり、どんなに美味しそうな匂いでもトーストやすき焼き臭の強い豆にはまだ先の段階があるのです、そしてこの段階ではまだ「酸っぱ渋い味」のもとである余分な成分が残っています。

 

(ちなみに180℃で1ハゼが起こるという説もあります、私が知る限りではアメリカのCarl Staubという方が1995年にBasic Chemical Reactions Occurring in the Roasting Processという文章で発表されたセルロースの分解とカラメル化が開始原因で摂氏180度=華氏356度で1ハゼが起こるとした説が最初です、同文書でStaub氏は2ハゼもリグニンの熱分解が原因としています、

実際に豆を電子レンジで加熱して1ハゼ時に赤外線放射温度計で温度を測ると焙煎機の時と違い180℃前後と計測されます、あとで熱風式焙煎機の説明をするときに詳しく説明しますが、これは実験環境と焙煎環境の違いによる圧力差が原因です)



・220℃手前(焙煎終了)

 

 焙煎の終了タイミングは220℃で2ハゼになるのでその手前です、焙煎終了はテストスプーンで急速に変化していく豆を頻繁に見て時に嗅覚などもつかい決定します、1ハゼ後に何分豆を膨らませるか、何℃で仕上げるかで味は全く変わります

 

豆が膨らんでくると、急激なメイラード反応とともに生豆の精油に含まれているアルコール類(エタノールではなくもっと沸点の高いもの)がカルボン酸類などとエステル化して香りのもとになるエステル類などが生まれます、代表的なものにはやカシス香の元であるギ酸3-メルカプト-3-メチルブチルなどがあります

 

(なぜ210~220℃の温度帯で豆が膨らむ時に急激に反応が起こるのかは謎です、単純に最適な温度帯なのかもしれませんが、細胞から油が染み出してきた豆が膨らんだ際の炭化した多孔質構造が触媒のようなことになっているのではないかと夢想しています)

 

作業仮説的概念というか一種の理念型としてですが豆には2ハゼ前に2つの頂点があると仮定してこの中間の時間帯で深煎り以外の焙煎は終了します、まずはすき焼きのような甘い香りが薄くなっていきだんだん果実感のある香りに変わって行き、同時に豆が膨らみ子供の肌のような明るいハリツヤが出てきます、この酸味さえ感じる果実のような香りが最も強い場所が「香りの頂点」で、サンプルスプーンで豆を目で観察し、匂いを嗅いで到達を確認します、その後に果実感のある香りが弱くなって甘い香りとコクが増えてゆき2ハゼ直前に「コクの頂点」へと進みます。

 

コクの頂点である2ハゼ直前には豆からフワッと煙が出て、非常に細かいシワも無くなり赤ん坊の肌のようになめらかになり、、色は暗く豆面はうっすらと油が浮いて照りがあり、見た目にもふっくら美味しそうで味はフルボディになります、この段階でようやくキナ酸カフェ酸クロロゲン酸類などの成分が完全にエステル化やラクトン化(珈琲らしい苦味の元のクロロゲン酸ラクトンなどが代表)するか分解しているので「酸っぱさ」や「渋い」味はほとんどなくなり、トースト臭とすき焼き臭から珈琲らしい香りに完全に変わります。

 

適切な焙煎ならコクの頂点近くまで焼けば2ハゼ前の豆でも指2本で潰すとバラバラと内側まで粉々になります、逆に香りの頂点よりだと豆の外側からパキッと割れる程度です、また、生焼けや浅煎りは焙煎後2時間ほどたつと指で割れないくらい硬くなってしまいます、ただしちゃんと焙煎しても欠点豆は硬いままのものが多いです、何故かカリッと焼けた正常な豆でもサンプルとして保存しておくと2年ほどで固くなりますが上質な豆は数年経っても良い匂いがします。

 

豆がちゃんと細胞一つ一つが空洞になって膨らみ切った状態になると珈琲を淹れる時もサクサクに粉砕できるので抽出効率もよく、カップのフチまで真っ黒くなります

 

ちなみに、色の濃さはメイラード反応で生じるメラノイジンの量で決まりますが、味や香りとの相関はある程度しかなく、色はあくまでも大体の指標にしかなりません、真っ黒な焦げた豆でも中は生焼けで「酸っぱ渋い味」が残っている場合もあるので注意してください。

 

いろいろな指標があり難しそうに聞こえますが深煎りまで焙煎して段階ごとに少しずつスプーンでサンプルをとって置けば豆ごとに最適な煎り上がりのタイミングを探せます。

 

 

・220℃

(2ハゼ・これ以降が深煎り)

 

 220℃で2ハゼが起こります、本書では1粒でも弾けて鳴ったら2ハゼに入ったものと定義し、これ以後を深煎りと呼びます、仮説ですが恐らくこれも220℃でセルロースが熱分解を始めることが原因であり脱水縮合などからの圧力で豆は少し音を出します、

 

高まった圧力にもろくなった豆が耐えられなくなって豆の内側が膨らみ2ハゼが起こると考えられハゼ音は「ピチピチ」あるいは「ブチブチ」と1ハゼより小さいです(恐らく熱風式焙煎機などでこの段階での水分量が少ないと音が低くなる)2ハゼと前後してリグニンからバニリンが生成されはじめ、ダークロースト特有の甘い香りがするようになります、これはウィスキー作りで樽を火で炙ってバニラ香を付ける「チャーリング」と同じです、バニリンの甘みやメラノイジンのコクが独特の味を作ります。

 

理由は不明ですが果物のような香りは2ハゼに入ると一瞬で大方消えてしまいます。

これは恐らく2ハゼを境に表面の炭化して空いた孔から油煙をともない、油が表面に染み出して香り成分が油の中で高温になり消えしてしまうからでしょう、

また一瞬でも2ハゼになったら油が出る前に焙煎を終了しても何日かすると油が汗のように染み出してきます、2ハゼ後の豆は吹き出した油が袋や容器にべっとりこびりつきますが2ハゼ以前の豆はどんなに油が照っていてもこびりつかないのですぐに見分けが付きます。



・220℃以上

 

 後述するように日本製一重ドラム焙煎機では多くの豆は2ハゼしてからすぐ焙煎を終えるよりももう少し焼いたほうがバニラの香りが強い甘い味わいの珈琲になります、2ハゼ後には発熱反応により加速度的に温度が上がり温度計はあてにならなくなるので時間か目視で終了時期を決めます、

 

220℃少し過ぎで焙煎を終了したほうが持ち味の出る豆もあるでしょうが、大粒の豆では2ハゼ少し過ぎで終了すると渋酸っぱさが抜けきりらないので大粒の豆は2ハゼプラス最低30秒以上の深煎りにすることをおすすめします、、苦味の元であるビニルカテコールオリゴマー類なども強く出てきますが一部の苦味愛好家には好まれますしそのほうが深煎りの甘みであるバニラ香が強くでますが深煎りは火災の原因になりやすいので注意しましょう。

 

また、焙煎中にも油が噴き出すような深煎りは飲み頃になるまでに恐らく表面の燻り臭さが加水分解するまで時間が必要であり、多孔質構造に詰まった二酸化炭素が豆を包み、メラノイジンにも表面の油にも強い抗酸化力があるために丁度ワインのように良い香りを生む酸化具合になるまで最低1週間以上の熟成期間が必要です、また、油が全体から吹き出し始めるあたりで生豆時から20%程度重量が減っています。

 

・230℃(3ハゼ)

 

 リグニンが230℃で熱分解を始め、その脱水縮合の僅かな圧力で焙煎機や豆などの条件によってはほんの少し音を出します、これが世に言う「3ハゼ」の原因と思われます。

 

ここまで来ると表面は油をまみれでまるで黒豆の煮物のようで熟成に3週間以上必要とします、

 

ここまで油が吹き出してくると油自体が酸化熱をもち急速に温度が上昇するので発火に注意してください、珈琲豆が正確に何度で発火するのかはよくわかりません、また冷却器下や焙煎機内部のチャフやこびりついた油汚れの着火にも注意してください。

 

本当に火事に注意してください。

 




 4 焙煎実務の一例~国産半熱風式焙煎機の場合~

 

 まずその日の焙煎を始める前に分類ごとの焙煎の難しさにあわせた焙煎方法や順番、投入量を考えますが「難しい豆」は言葉を変えると「水残りしやすい」「特に美味しいタイミングが一瞬で過ぎてしまう」「ガス圧の調整回数が多い」ということです、国産半熱風機は基本最初の回は焙煎機の蓄熱が足りず一番安定しないので、それを考慮して例えばまずは小粒豆の深煎り(もしくは後述のダブルローストの前半工程をする)

その後の何回かは焼きやすい豆の焙煎、それも焙煎量が少ない豆から順に煎る難しい豆は焙煎機全体に十分蓄熱した後に、など工夫します、

 

1回目 小さい豆の深煎り 2回目 大きい豆の深煎り 3回目 普通の焙煎 4回目浅め焙煎

 

といった具合です、火力調整になれてきたり焙煎機容量に余裕があれば順番はそこまで気にする必要はないですが、その日最初何回かはやはり予熱が不十分で計算と火力調整が必要です。

 

百人百様の焙煎がありますが以下は排気と冷却で一つのファンを使う国産ドラム型半熱風式焙煎機の一例です、熱風式については後ほど説明します。

 

 一日の焙煎量、順序、投入温度(半熱風式で一般に150-180℃で熱風式は200℃前後)を設定します

 

 初回はダンパーを閉め気味で焙煎機を温度計が200℃になるまで予熱します、また、このとき排気温度計がある場合は排気温度も毎回同じ温度になるようにすると(例えばドラム温度計で2xx℃排気温度計2xx℃など)焙煎の再現性が上がります。

 

 弱火にするか消火してゆっくり温度を下げ、初回の豆を投入します(初回は特に予熱不足になりがちなので深煎りか少量焙煎をする人が多いです)

 

 温度計の表示温度が低下して底を打ったらダンパーを開いたり火力を強くします、機種により最低温度までの時間は様々です。

 

 最低温度から7〜10分前後で1ハゼになる温度上昇速度を目安にガス圧を調整します、特に水分の多い豆ならハゼまでの時間を長くします、場合により吸熱の激しい豆温度130℃、150℃、170℃、180℃そして200℃で1ハゼ開始が開始する時に火力を強めます、もしダンパーを使用する場合は150℃から200℃までのいずれかのタイミングで調整します。

 

 1ハゼ音が連続してパチパチなったら(もしくは1ハゼ開始後x秒経過してから)ガス圧を弱くして3分から4分程度豆を膨らませて豆温度220℃近くになったらテストスプーンをこまめに確認します。

 

 焼き上げるか、2ハゼを入れて深煎りにしてからダンパーを閉じて蓋を開き豆を冷却槽に移し撹拌し、冷却器のパンチ穴が見えないように均等に平らにして冷却します、少量の焙煎で撹拌機が回るとき豆の間からパンチ穴が見えるようならば冷却効率が落ちるので豆が平らに均されたときに撹拌機は止めても構いません、この間に消火するか火を弱めて、焙煎機の温度をゆっくりと下げます、このとき排気系が別についている焙煎機の場合は連続して(冷却と並行して)焙煎できます。

 

 焙煎機が投入温度になったら豆を入れ次の焙煎に入ります。

 

 焙煎がすべて終了したらモーターを動かしながら50〜60℃程度まで冷ましてから電源を切ります。




 5 温度計と豆温度の差

 

 焙煎機本体の温度計は、豆温度130℃で豆の中まで水分が沸騰して豆が大きくなりその後水分が抜けて一旦豆が縮んでシワが寄ることや、いろいろな化学反応で生まれるガスや脱水縮合の蒸気でまた膨らむこと、その圧も抜けて170℃以降再びシワが深くなり、1ハゼでまた膨らむことで豆の大きさが変わるその度に豆や熱風の当たり方が変わり温度計は豆温度とずれています。

 

 200°cで1ハゼ、220°cで2ハゼ、これはどの種類の豆でも同じですが温度計の温度は1ハゼ時に200℃丁度を示すことはほとんどありません(例えばフジローヤルは1ハゼ170°cから180℃程度でギーセンだと1ハゼ196°c2ハゼ224°c)

 

これは恐らく表示が豆温度より高い場合は熱風の影響であり、ハゼ温度が200°cより極端に低い場合は恐らく半熱風式ではドラムからの伝導熱の影響で温度計が200°cになる前に少し離れたところで先にハゼる豆が有るのが原因でしょう。

 

つまり本体の温度計は排気量、蓄熱量、豆の大きさの3つの影響を受けているわけです。

 

このようにさまざまな要素から温度計は豆温度と差があるわけですが重要な温度の記録をとれば毎回安定した焙煎をできるようになります、

とくに記録すべきなのは以下の3つの温度です。

 

①水抜き終了時150℃

 

水抜き終了時つまり150℃~155℃はそれまでに水分を抜いておかないと多糖類の加水分解が進みすぎるまたは後述の蒸解が起こりすぎて臭みが出てしまうので時間配分を決めるのに重要な点です、ハゼ音のような明確な指標はありませんが参考になる指標はいくつかあり、

 

まず温度計が上がりにくくなり、色が濃くなり豆がやや膨らみ、キャラメルのような匂いに変わり煙も多く出てくるところで後述の赤外線放射温度計で計測して本体温度計との振れ幅を計測します、

もちろん必ず誤差はありますが目安としては十分です。

 

 

②200℃ 1ハゼ

 

 国産半熱風機などでは170℃代で1ハゼになることもありますが温度計が200℃になる前に温度計から少し離れたところで(恐らくドラムの伝導熱に強く影響されて)1ハゼが起こっているだけなので200℃ちょうどで1ハゼが来ていることに変わりはなく、温度計は熱電対温度計プロープの先端の温度を示しているだけなのです、また逆に例えば熱風式で1ハゼ時に温度計では203℃というように数度高く表示されることもあります。

 

③220℃ 2ハゼ

 

2ハゼ後の豆温度と温度計の差は1ハゼ後に豆が膨らみ温度計への豆の当たり方が変わることで起こると考えられます、

 

伝導熱を多く使う一重ドラム焙煎機は予熱が十分されれば2ハゼ時の温度計上の温度と豆温度の差は一定の値に安定していきます、

 

それまでは2ハゼ時の温度計の表示は毎回少しずつ何℃か多少異なることもありますが、焙煎回数と2ハゼ温度を記録したり、赤外線放射温度計で計測すれば2ハゼの接近を予測できます。

 

また、温度計表示上の温度は天候など様々なことに影響を受けます、

 

例えば空気は温かいほど体積が膨らんで送風しにくくなり気圧が低くても同じく膨らみます、また煙突への日当たりなども影響があるそうです、ほかにも同じ理由で排気系の掃除状況、ダンパーなどの風量の調整で排気量が変わるので温度計と焙煎の仕上がりに影響があります。



6 データ取りとプロファイルづくり

 

 味の再現性で大切なのは最低温度に達してから毎回同じ時間で豆温度150℃、220℃、220℃に到達することです、そのため正確な豆温度と温度計の差のデータが必要です、豆温度の確認は耐熱仕様でペンタイプの赤外線放射温度計をサンプルスプーンの豆にできるだけ早くゼロ距離で押し当てて計測します(スプーンを完全に抜き取る必要はありません

このタイプの温度計はネットで数千円で買えます、もちろん抜き取るまでの時間や当てる角度とスプーンの金属部や豆から噴出するガスや水蒸気の影響を受けるので完全とは言えず必ず数度の誤差はありますが実際の豆温度の目安にはなります。


機種はA&D 放射温度計 AD-5617MT

焙煎機を新たに使い始めるときは先に品種と投入量に対しての排気量を決定し、全体が何分で終わる焙煎にするかを決めてデータを取る場合は以下のようなことを記録します。

 

・天候及び室温と生豆の温度や状態

・投入温度とそのとき何回目の焙煎か

・温度計表示上の最低温度とその時の豆温度

・豆温度100℃の時の温度計表示

・豆温度130℃とそのときの温度計表示

・豆温度150℃とそのときの温度計表示

・豆温度170℃とそのときの温度計表示

・豆温度180℃とそのときの温度計表示

・いつ豆温度と温度計の温度が離れ始めるか

・連続焙煎時の回数と1ハゼと2ハゼの豆温度と温度表示

・1ハゼと2ハゼの間の時間

・焙煎直後から10日程度の味の経時記録

などなどです。

 

まず、これらの豆温度x℃地点で温度計はx℃と記録して、その後に生豆xgをx分でx度上昇、というように記録して、狙った温度上昇を達成できるガス圧と風力を探ります。

 

ちなみに日本の都市ガスは13Aで1KPa~2.5KPaでプロパンガスは2KPa~3.3KPaカロリーは都市ガスの2.23倍あり関東関西でhz数が違いモーターの回転数も異なるのでバーナーやベルト、ファンの羽根の枚数などで同じになるよう調整してあるので他の店のプロファイルを参考にする時には注意してください、

 

また、その日の気温室温気圧湿度(湿度が高いと空気密度が低くなる)も空気の体積に影響して排気量に影響を与えますから(煙突がある場合は煙突への逆流の影響も受けるので特に)天気と気温は記録しておきましょう。

 

味の確認はご家庭用のペーパーフィルターで行います、

特に①冷めてから飲むと反応が不十分のときにカップの中の加水分解で生じる雑味がよく分かります、時間がたっても美味しいならちゃんと焼けています、また②デミタスで濃く淹れても美味しいなら日本人向けの焙煎は成功といって間違いないでしょう、さらに③フィルターに残った豆の粉の出涸らしが一晩おいても良い匂いがすれば大成功です。

 

 

7 熱風式焙煎機の特徴

 

 ドラム式熱風焙煎機の説明に移りますが、操作方法の違いとしては半熱風一重ドラム焙煎機は1ハゼまではガス圧を上げていきますが

 

プロバットなどのドラムを二重にして断熱してある二重ドラム焙煎機は温度計で180℃〜200℃前後で投入して最低温度から130℃あたりまで(あるいは投入時からすぐに)高火力が必要です、

 

その後焙煎の進行にともない少しずつガス圧を落としていき、例えば豆温度150℃や200℃といった重要な温度ではガス圧を少しの間「保って」目標とする温度上昇を達成してからまたガス圧を下げていく、あるいは重要な温度では少しガス圧を上げてからまた下げる、といった焙煎をします、このため日本の文献と海外の文献とは噛み合わない部分があるのでしょう。

 

熱風式のプロファイルは国ごとにかなり異なりますが、私が調べた限りではおおよそ1焙煎15分以下で、時間配分については投入時から焙煎終了までの総焙煎時間の内、

 

投入温度Charge Temperatureで投入して(最低温度はTurning Point)投入から150℃前後のDry endあるいはGold Pointまでが乾燥段階Drying phaseとよばれ全体の30%以上50-60%以下で(ギーセンによると投入から6〜8分間)

 

Dry endから1ハゼまでのMaillard Phaseが焙煎プロセス全体の約40%以下で、1ハゼから焙煎終了までのDevelopment Phaseが全体のの30%以下でした、

 

また、海外では指標として1分あたりの温度上昇率(ROR、Rate of Rise)とDevelopment Time Ratio(DTR、1ハゼから焙煎終了までの時間が全体に占める割合)を使うことが多いです。

 

後で詳しく理由を説明しますが焙煎機の違いにより味はかなり異なり深煎りでは一重半熱風式のほうがコクが強く甘く感じます、恐らくこれが昔から日本人が大粒のマンデリンやグアテマラの豆を好んできた理由ではないでしょうか?大きい豆を焼くなら半熱風の特徴であるコクが際立つからです(特に昔は喫煙者が多かったので好みも違ったのでしょう)

 

また欧米では戦後2重熱風式焙煎機の普及とともに焙煎時間が短くなり(焙煎時間は戦前のヨーロッパではガス式ショップロースターで1焙煎に30分もかかっており日本でも数十年前までは1焙煎30分は珍しくなかった)さらに深煎りは避けられるようになったようです、これは熱風二重ドラム式では一重ドラム半熱風式のような甘みのある深煎りができなくなったためでしょう

 

(ちなみにスターバックスアメリカ企業としてはとても珍しく現代でも流動床式の超巨大焙煎機でわずか3分で2ハゼにいれて深煎りにしていますが、もともとは古いプロバットのドラム式焙煎機で2ハゼにいれて戦前のオランダ式の深煎りにしていたそうです、恐らくこの名残でアメリカでは珍しいことにマンデリンを使います)

 

対して熱風式は2ハゼ前での香りがよく出ます、私は熱風式での香りの頂点に向かうドイツ人の好む焙煎をドイツ式焙煎と呼んでいます(ドイツ語圏も現在はアメリカの影響でアメリカ式の1ハゼ後の時間が短い豆温度210°c程度までのミディアムローストが多いですが)見た目に関してはKaffeebohnenとドイツ語で画像検索して見てください、ただし日本人の感覚からするとまだ少し酸っぱいです。

 

そして、この段階より深い熱風式で1ハゼ後3分程度かけて220℃ギリギリの酸味がほとんどなくなるコクの頂点付近まで煎る焙煎がエスプレッソ向けのイタリア式の焙煎になります(北部の旧オーストリア帝国の影響を受けている地域などは焙煎が少し浅い傾向があります)ちなみに日本や多くの国ではイタリアンローストというと油ギトギトの豆をいいますが実は現在のイタリアではエスプレッソ用豆の色は濃いものの2ハゼ以前のテカテカしている程度のコクの強い豆が主流です、Caffè in graniとイタリア語で画像検索してみてください、

南イタリアではさらに深く煎りますが、たとえロブスタ種でも2ハゼにはしません、オーストリア式焙煎は現在はエスプレッソ向けが主流で黒くツヤツヤした、ドイツより深くイタリア式よりも浅い2ハゼ以前のコクと酸味のある焙煎です。

 

  8 排気の調整

 

 排気を調整するための弁をダンパーと呼びます、ダンパーを基本的に動かすのは焙煎機を予熱、豆を冷却する時と豆の投入量を変えた時だけで基本的には焙煎中は動かしませんがダンパーやインバーターで風力を変える特殊な 焙煎方法もあります。

 

排気は強すぎると室温の空気を引き込んでしまいカロリー不足に、弱すぎると焦げや焼きムラの原因になります、投入量に合わせたダンパー位置や排気の調整が必要です、焙煎中にダンパー操作で焙煎機の排気量を調整して熱をうまく伝えるフジローヤルも推奨するニュートラル焙煎という方法もあります、これは高温になると空気が膨らんで排気効率が落ちるのでだんだんダンパーを開いて調整すると良いという方法です、しかし焙煎機の排気量を手動で操作して最適化するというのは非常に難しく経験がいります。

 

例えば航空機エンジン専門家、ステファン・ディートリッヒ氏が開発したディートリッヒ焙煎機ではダンパーは冷却と暖機運転時しか操作しません(国産機と同じ一重ドラムで冷却ファンと排気ファンは共有、ただし炭素鋼ドラムで構造はだいぶ異なる)

排気量を細かく変えたいときは大型機によくあるインバーター付きの焙煎機を使うのがおすすめです、小型機にもギーセンなどのようにコンピューター制御により風量を調節してくれる焙煎機があります。

 

私が調べた限りでは日本の小型焙煎機についているダンパーの起源は戦前に日本や南北アメリカ大陸で普及していたアメリカ製のロイヤル焙煎機というものに由来するようです、ロイヤル焙煎機は直火式焙煎機(直火式自体はイギリス産まれ)でひとつのモーターでドラムの回転と排気ファンを回す構造で、排気と冷却を一度にできないので切り替えるためにダンパーがついていたようです。

その後ロイヤル焙煎機は改良され投入容量に合わせてダンパーを使い排気量を調整できるようになりました。

 

ダンパー操作で味を作ることで有名なカフェドランブルの故関口一郎氏の著書によると日本では戦前Burnsroastersなどのアメリカ製の焙煎機で(現代焙煎の父バーンズ氏が創業し現在もPROBAT傘下で大型のパンチングドラム式焙煎機を作っている、直火とは異なる珍しい形式⇩ユーチューブの動画)

BURNS B270R Feature (Imperial) | BURNS Industrial Coffee Roasters and Coffee Processing Systems - YouTube

 

ヨーロッパ式の深煎り(オランダやフランスのようなフレンチロースト、本来の意味での植民地での低品質のロブスタ豆を油がベットリとなるまで深煎りにする焙煎)にしていたのに違和感があったそうなのでその頃にはもう直火式で深煎りという昔ながらの日本の焙煎は始まっていたようです。

 

そして戦前から戦後にかけてアメリカ製の焙煎機に強く影響を受けた旧フジマシーンやラッキーコーヒーマシンのいわゆる「ブタ釜」が登場し9章で後述するダンパー操作をする焙煎ととともに普及したわけです。

 

その際に日本では排気ファンのモーターが独立して一重ドラム半熱風式が普及し、海外では二重ドラムの熱風式が普及して日本と海外の焙煎は別れていきましたが、現在もアメリカでは古い焙煎機の血を引く一重ドラム焙煎機のメーカーがいくつかあります例えばディートリヒですが、やはり手動ダンパーがファンの切り替え用に残っています。

 

そして面白いことにSan Franciscan Roaster社製の焙煎機は伝導熱と対流熱の両方を制御する能力を売りにしており手動ダンパーとインバーターによってドラムの回転と風力を焙煎中に変化させるそうです。

https://perfectdailygrind.com/2019/02/coffee-roasting-guide-what-is-airflow-how-can-you-control-it/

 

これは関口氏が愛用していたフジローヤルやカフェバッハの田口氏が設計に関わったインバーター搭載の大和鉄工所のマイスターの設計思想と同じで、丁度生物が共通の祖先から枝分かれして同じ姿になる収斂進化のようなものであり、なんと前半の乾燥段階で風量を減らすところまで同じです、アメリカではSOAKという名前で前半の火力を弱め輻射熱(と伝導熱)に豆を「漬ける」つまり日本で言う蒸らしと同じ効果を狙った技術があるそうです。

https://millcityroasters.com/commercial-coffee-roaster-news/what-is-a-soak

 

さらに韓国台湾中国にもフジローヤルから影響を受けたメーカーがたくさんあるので日本のダンパーを利用した焙煎方法は海外にも広まっています。

 

逆にドイツ製プロバットのダンパーは(現在はプロットの小型機に回転式ダンパーは有りませんが何十年も昔からあるUGシリーズなどの一部の中型焙煎機にはaroma wheelという名前でついています)小型焙煎機にはあったとしても通常固定で豆は最低でも容量の半分以上入れて効率よく熱風でふっくら焼いて香りを良くする焙煎を目指して設計されているようです。

 

国産一重ドラム半熱風式の図解



半分余談ですが実はいままで混乱を避けるために詳しく書いて来ませんでしたが一重ドラム国産半熱風式焙煎機では条件次第でハゼ温度が異なる時があります。

 

現代の焙煎機では豆は200℃丁度で1ハゼします、しかし風力が弱く伝導熱を強く使う一部の一重ドラム半熱風式と水分量の多い大きな豆とダンパーを閉じる操作や強すぎる火力の組み合わせで水分の蒸発が遅れることがあると圧力が強く保たれ、稀にヘミセルロースの熱分解が起こる180℃で1ハゼになることが有るのです、この場合の2ハゼは200℃で開始します、180℃前後で1ハゼとする文献ではオーブンなど実験しているため水分が蒸発しにくく同じ現象が起きていると考えられます、試しに電子レンジで熱してみると豆は180℃でハゼます。

 

丁度20℃均等な差があるのでややこしく混乱しますが基本的に日本製であれ海外製であれ現代の焙煎機では極端な操作をしない限り180℃でハゼることはまずないです、実際私も操作を誤った時にしか経験したことがありません。

 

また、焙煎が長かったりして乾燥させすぎると恐らく逆の理由で220℃ではなくリグニンの熱分解する230℃で2ハゼになることもあります。

 

 

 

 9 いろいろな焙煎法

 標準的な焙煎以外にも以下のような様々な焙煎方法があります。

 

①伝導熱強化焙煎

 

  これは前述のダンパーや排気ファンを操作して豆の味を変える焙煎に私がつけた総称です、ダンパーや排気ファンを操作して風力を弱くすると(インバーターが付いている焙煎機の場合はシリンダーの回転数を減らすことも含む)その分豆に熱を与える対流熱と伝導熱の比率が伝導熱よりなります、この操作を焙煎の前半にすることを日本では昔から「水抜き」と呼びますが、

 

実際は風力を弱くするのは例えるならコンベクションオーブンの送風を止めるようなものですから逆に対流熱の比率が低くなり豆は乾燥しにくくなるはずです、つまり、水分が残ったまま焙煎が進行します、実際に風力を前半(大体投入から150℃〜1ハゼまで)落としてみると甘みとコクを強く感じます、これはデンプンなどが加水分解されて単糖が増え、さらにそれがメイラード反応をより強く引き起こすためコクが強くなると考えられます(メイラード反応は温度155℃程度、水分量が10~15%、水分活性0.6~0.8程度が起きやすいとされています)

 

この操作を「蒸らし」と呼ぶ方もいますがこれはおそらく蒸発を抑えることで水分を媒体にして豆の中までしっかり熱を伝えることを重視した呼び方なのでしょう。

 

そして結果的に温度上昇が弱くなり130℃以下の特に豆が柔らかくなる時間帯が長くなり水分も容易に蒸発していくわけです。

 

ただし、この方法は失敗すると水分が抜けきらず、さらに成分の脱水縮合が不十分で香りが生まれず逆に加水分解によるいやな酸味が出やすいので深煎りにする時に使うのが良いかもしれません、私が思うにこの焙煎中に排気量を変える焙煎というのは豆の質が悪く水分量も不均一で深煎りにするしかなかった時代に少しでも豆の焙煎のばらつきを減らし、また甘くしようとした努力の結果生まれた焙煎方法なのではないでしょうか?

 

ただし豆温度130℃150~155℃及び170℃付近にとどまりすぎると過剰な加水分解などで少糖類が増えすぎメイラード反応やキャラメル化過多になるためか、後味の悪い甘さが出たり悪影響があるので注意してください、また風力の操作は比較的長時間の焙煎(国産半熱風機で最低温度から1ハゼまで温度計温度で毎分平均5-6℃を上昇させるカフェ・バッハなどの焙煎)をするのにも使われる技法です。

 

 

 

②ダブルロースト

 ダブルローストは水分の多い焙煎しにくい豆を白っぽい色からうす黄色になるまで、あるいは1ハゼ近くまで火を通して乾燥させてから完全に冷まして固まるのをまち、再び焙煎して焼き上げる方法です、豆を完全に冷まして硬化させてからでないと水分が蒸発しすぎてしまいます、またダブルローストをするとどうしても香りの個性は弱くなります。

 

③混合焙煎

 最初から数種類の豆を混ぜてする焙煎です、どうしても焙煎終了時に種類ごとの焼き上がりのムラができるので主に油が全体に回るほどの極深煎りの焙煎に使われます。

 

④水研ぎ焙煎

 

 水研ぎ焙煎は薄皮(チャフ)などを落とすために水を使って豆同士をこすり合わせて「研ぐ」焙煎方法です、また洗うと欠点豆が浮かび、見た目もはっきりして見つけやすくなります。

生豆を「浸け」てしまうと余計な水分が染み込んでしまうので(余談ですが一晩漬けると浸透圧で成分も滲み出します、逆にそれを利用したのがスイスウォータープロセスのデカフェ)米研ぎザルを使い手早く60秒以内に終わらせて水が染み込まないうちに水分をよく取ってから焙煎を始めるか扇風機などを使い乾かします。

しかし、どんなに手早く乾かしても一度水分を吸ってしまうと水残りしやすく、水分が十分蒸発しないまま通常の焙煎が進行していくと以下のような問題が起こります。

 

・渋酸っぱく香りが薄い

 焙煎の序盤でクロロゲン酸類が加水分解する時間が長くキナ酸カフェ酸が作られ過ぎ酸っぱく、さらに加えて、クロロゲン酸類やキナ酸などの脱水縮合によるエステル化、ラクトン化が十分起こらず成分がそのまま残るので香りが出ず、クロロゲン酸類自体の渋みが残ります、ナスやゴボウの灰汁のような舌が縮む収斂味です、また、さらクロロゲン酸類はポリフェノールなので大量に残っているとナスやゴボウの灰汁を飲むようなものなので腹痛のもとになります。

 

・コクがない

 コクがなく味が平坦、これは水分が多すぎても少なすぎてもメイラード反応が起こりにくいためでしょう(水分量が10~15%、水分活性0.6~0.8が最適範囲)水残りはほうじ茶を煎るときやスパイスを炒めるときに水をビシャッと足すようなものです。

 

・痛みやすい

 豆の水分が残ったクロロゲン酸や僅かなフラノン類ラクトン類もやがて加水分解していき渋酸っぱく香りが薄くなり、室温でも賞味期限が短く、珈琲を煎れても高温で加水分解が急速に起こるのですぐに味が落ちます、つまり、水を吸ったまま焙煎すると見た目は良くとも渋酸っぱいのに味も香りも薄く、さらには早くダメになってしまう豆になるわけです、

 

これらが世にいう「水で洗うと味が薄くコクがなくなる」理由です、実際に水研ぎ焙煎をしている店の多くはこれらの問題を解決できていません、なぜならどうしても乾燥に時間がかかり、表面は乾いても水分を内側まで吸った豆になってしまうからです。

 

薄皮は焙煎中に高温の熱風で殺菌され最後に表面の薄皮は銀杏の薄皮やみかんの皮のように丸ごとポロッと剥がれます、そのため珈琲豆はみかんやお茶っ葉よりも綺麗です。

 

そもそもお茶や紅茶も精製工程中に水で洗わないですし、香辛料やほうじ茶を煎る時に水で研ぐということもしません、ドイツ、オーストリア、イタリアなどの珈琲の本場でも焙煎時に豆は洗いませんし逆に水分量の調整に精製、流通段階から気を使います。

 

エチオピアの珈琲セレモニーでは水で洗う事は知っていますが、あれは焙煎機ではなく炭火と手鍋で日本では手に入らない素晴らしく新鮮な豆を油が吹くまで深煎りにしてゆっくりお湯で煮込むことが前提の文化なのです、もちろん焙煎機を使う場合はエチオピア人も豆は洗いません。

 

焙煎機を使い日本の条件下で水研ぎ焙煎をする美味しい店もありますが、炭酸水や特殊な気泡で洗ってからダブルローストをして油が全体に回るくらい超深煎りにされているようです。

 

10 焙煎失敗と対策

  明らかにまずいと感じるほどの焙煎失敗は殆どの場合は豆の量に対しての排気と火力のバランスの悪さが原因であり以下はその分類と対策です、問題が複合して起こる場合もあります。

 

①伝導熱過多

 火力が豆の量と排気に対して強すぎた場合(特に焙煎前半)伝導熱でばかり豆が加熱され水分が残り、デンプンなどの加水分解で出来た糖類から生じる過剰なメラノイジンの平坦な甘みやカラメルの酸味と苦味がでてしまい香りの個性がなくなります、

 

②排気過多  

 豆量と火力に対して排気が強すぎて室温の空気を取り込みすぎて加熱が足りず、香りは薄く渋い味になりがちです、特に蓄熱の少ない焙煎機での焙煎や火力を絞り過ぎたときによく起こります。

 

③過剰加熱

 火力と排気のバランスが取れても豆の量に対して過剰=温度上昇が早すぎだと豆の中は生焼けで臭みが出て表面だけ焙煎が進み味は平坦で特徴や香りに欠け、エグミや焦げ味がでます、特に1ハゼと終了までの時間が短かったり生豆から数分で焼くような流動床式熱風焙煎機で顕著です。

柔らかく水分が多い豆は投入温度を下げたりします、表面に斑のある焦げ目Scorchingがある場合は投入温度が高すぎるか初期の火力が強すぎるので少し調整しましょう、

 

また、1ハゼ後の伸ばし時間をしっかり取らずに表面の温度上昇速度だけが早すぎても水分が十分抜けきらないので加水分解反応が激しく起こり、酸が過剰に生成されて残ってしまい、中は渋酸っぱい味になり、見た目を綺麗に焼き上げても残った水分が少しばかりの美味しさ成分もすぐに加水分解してしまいます、また逆に水分量が少なすぎても十分な加水分解が起こらないまま焙煎が進行するのでクロロゲン酸に由来すると思われる劣化した安い赤ワインのようなエグミと後味の悪さが際立つこともあります。



④加熱不足

 加熱が足りないと過剰な加水分解で生まれた成分がエステル化ラクトン化せずにそのまま残るため、いわゆる「水抜きがうまく行かない」状態になり排気過多と同じように加水分解による渋酸っぱさがのこり、特に水分を抜けきれずに2ハゼに入れると豆が高圧になりすぎてハゼの時もろくなった表皮が一部吹き飛びます(いわゆる欠け、クレーター)そして温度上昇が弱く成分変化を十分に起こせなかった為味と香りが薄くなります、

特に150℃までの乾燥段階で水分量を適切な量に収められなかったりすると胃に来る生臭みが出たりします。

さらに焙煎時間が不必要に長くなり後味が悪く黒糖を焦がしたようなベタッとしてキレが悪い嫌な甘みがのこります、おそらく多糖類の加水分解が強すぎてそれと共にカラメル化やメイラード反応が起こりすぎるためでしょう、また豆の表面がピリピリする味がしたり煙臭い場合もあります

 

(スモーキーなウィスキーや、バニラエッセンスをなめたときのような刺激や、乾燥不足の燻製の味がする、フェノール類が原因か?)

 

これらの場合は投入温度が低すぎる、前半の熱量が少な過ぎたもしくは水分が残っているのが原因でいわゆるオフフレーバーの一種になっているわけです、特にナチュラル製法などでは生臭い汗がムレたような臭いがします、また、前半の熱量がたりないとはたとえ後半に強く加熱しても取り戻せません、十分な火力で1ハゼまで持っていくか適切な時間内でじっくり火を通すかして適切にな熱量を豆に与えることが重要です。

肝心なのは焙煎機容量に対して適切な豆の投入量を決め、次にそれに合わせて適切な排気量を設定し、最後に火力を調整することでバランスのとれた適正な温度上昇を達成することです、

 

それでも味が悪い場合は豆の品質や保存状態が悪いと考えられます。




 11 生豆について

 

・豆の簡易分類

 さまざまな豆の分類法をもとに豆を簡易的に分類しました、この分類は大きさや形や

厚み、密度などを省略して焙煎のしやすさと水分の量にのみ注目した覚えやすさ重視の分類です、例外も多いものとご了承ください、また国名、品種、規格は一例です。

 

 

 

水分

水分ない

焙煎が



・小さい

・薄い

・柔らかい

などの特徴

1多楽グループ

エチオピア・ウォッシュド

ハイチ・ウォッシュド

ブラジル・ウォッシュド

など

2少楽グループ

ブラジル・ナチュラ

エチオピアナチュラ

イエメン・モカ

ピーベリー

ロブスタ種

など

焙煎がしい



・大きい

・厚い

・硬い

などの特徴

3多難グループ

マンデリンSG 

コロンビアExcelso Premium

ニカラグアSHB EP

グアテマラSHB EP

ケニアAA TOP

タンザニアAA

パプアニューギニアシグリAA

など

4少難グループ

コロンビア・ナチュラ

ニカラグア・ナチュナル

グアテマラナチュラ

ペルー・ナチュラ

大きな古豆

など

 

 

1 多楽グループ

 果実感の強い香りとスッキリとした洗練された味わい。

 

2 少楽グループ

 密度が低いものや小さいものが多く水残りがしにくく焼きやすい、恐らくクロロゲン酸があまり加水分解せずに残り、クロロゲン酸ラクトンによると思われる珈琲特有の苦味が強い。

 

3 多難グループ

  デンプンとショ糖の加水分解が強いためか甘いものが多い、その一方で水抜けが悪い為2ハゼ前だと水 残りしがち、一重ドラム半熱風式焙煎機での深煎りに向く。

 

4少難グループ

 デンプンやスクロース加水分解が起こりにくく、メイラード反応の元になる糖が生まれにくいために キャラメル化や他の香ばしさを強く感じる。




・豆の仕入

 

 生豆の仕入れは必ず直接商社から行います、一昔前は個人店は相手にされず中堅焙煎グループから売ってもらっていたようですが現在はインターネットがあるので小規模販売をしている商社から直接買えます。生豆の格付けは国によりかなり異なりますし商社が独自に選別している場合もあるので商社に直接確認して覚えていきましょう、大手商社の最低注文量は1回1品種300kg〜600kgですがもっと少ない1回1品種10kg単位で卸してくれる会社があります、私の商社を選ぶ基準は新豆の(新豆はNew Cropと呼び緑色で水分量が多い、古豆はPast Crop)のマンデリンSG(SUPER GRADE)です、他にエチオピア・イリガチェフ産在来種の中から最も高価な豆を飲み(エチオピア・イルガチェフ産は有名ブランドだけにとにかく玉石混淆です)

 

満足したら、ケニアグアテマラ、コロンビア、ブラジルなどの名産地の豆を値段が高い方から試していきますが生豆は(許容できる価格帯のなかで)高い豆から選びます、価格は為替などにもよりますが2020年現在高品質なスペシャリティコーヒーは袋売りで1kgあたり1500円、物価の比較で言うとスタバのトールラテ4杯分、ビッグマック4個分、希望小売価格の500mlペットボトルコカコーラ10本分以上の価格が目安です。

 

ただし、アメリカ、オーストラリア、台湾などの人件費の高い先進国で作っている場合や受賞、ブランド化、オークションなどにより特に高い値がついている豆もあります、またブラジルなどの大産地で数年に一度霜害(そうがい、急激な気温低下による農業被害)が起こるとロブスタからスペシャリティ豆まで価格が上昇するので要注意です、今後は中国を始めとした人口の多い国の経済成長、需要増加、地球温暖化、日本経済の衰退により国内に入ってくるスペシャリティコーヒーの価格は長期的には上がり続けることになるでしょう。

 

・生豆の保存

 生豆は湿度、光、外気、高温、温度差による結露、カビ、虫食いに弱いのでそれらを避け、窓や入り口から離れた気温が15℃前後、湿度が50~60%の温度変化の少ない場所で保存するのがベストと言われていますが玄米用冷蔵庫でもない限りなかなか難しいのが現状です、一番良いのは商社から生豆をこまめに買い、できる限り早く使い切ることでしょう、そのため個人店で20種類も30種類も売るのは種類が多すぎるように思います、豆保存に関しては長期保存(1年以上)の場合は湿気の抜ける紙製米袋や短期保存(数ヶ月)の場合は逆に密閉できる真空(脱気)袋やプラスチックペール缶などに保存する人が多いです、密閉する場合は開封後の劣化(油の酸化など)が早いのでできれば数日以内に使い切りましょう、小規模店の場合はパッキン付きの米びつなどの容器を使うか、ビニール米袋に小分けして布団圧縮袋に脱酸素剤か使い捨てカイロを入れれば脱気されて真空パックのようになるのでそのまま保存できます、なんにせよなにか容器にシリカゲルなど湿気を取るものと一緒にいれて、温度変化湿気日光を避けるようにするとよいでしょう。

古い生豆などでの水分量が適量以下(一般に生豆の8-12%が適量と言われる)では本来の持ち味より香りが薄くなったり、良く言えばほうじ茶のような、悪く言えば枯れ草のような味がすることがあります、これは恐らくデンプンとショ糖の加水分解が起こりづらくメイラード反応の元となる還元糖が少なく、更に水分不足でメイラード反応の最適範囲にいたらないのでカラメル化が中心の味になるためと考えられます(逆に新豆は水分が多く色も濃くなる)これをエイジングと呼んで湿度温度管理された環境で長期間(1年〜30年)カビないように保存する店もあります、主にマンデリンなど大粒で水分量の多い豆が選ばれ何年もかけると香木や高麗人参のような独特の香りが出ます。

 

・豆の選別

 豆の中には異物や、焼きムラの原因となる象豆、ピーベリー(普通一つの実に2つの豆が入るところを1つしか入っていなかった丸っこい豆、と言われるが実際は2粒入っていて片方がピーベリーのこともある、対義語は平豆、フラットビーンズ)割れ豆、味を極端に悪くするカビ豆、虫食い豆、貝殻豆(実の中で2つの豆のうち一つしか育たなかったもの)、発酵豆、欠け豆、ドラムの予熱ムラや回転数の早すぎにより端が焦げた豆Tippingなどの「欠点豆」といわれるものがあります、

 

焙煎すると欠点豆は色形が際立ってわかりやすくなります、なぜか半熱風焙煎では欠点豆は焙煎しても硬いままです、恐らく糖分や水分が少ないため圧力が低くうまく膨らまないのでしょう

非常に労力を使うので、現地であらかじめできる限り選別された値段とグレードの良い豆を買うのがいいでしょう、選別の手間暇の機会費用と目減り分を考えるとトントンか安くすみます、

しかし珈琲は米と同じく農作物なのでどんなに良いロットでも欠点豆はゼロにはできません。

 

・豆の臭み

 

 豆にはもともとさまざまな臭みの成分が含まれており、焙煎によって消えたり逆に増えたりします、代表的なものは焙煎序盤(水抜き、蒸らし、Drying phaseとよばれる水分を適切な量まで減らす段階、減らしすぎると苦味が強くなる、海外では150℃ー155℃までが多い)で豆の中まで水分が沸騰して白っぽくなり柔らかくなるとき生じるジメチルスルフィドという成分で上あごや胃が縮むような臭いで(実際胃を悪くすると粘膜のタンパク質が分解されてこの物質は作られるのでその関係でしょう)強く残ると都市ガスに添加されている臭い、腐った生ゴミ、藻屑の浮いた磯溜まりの匂い、腐った抹茶、馬糞、刈り取った芝生のような悪臭です。

 

これは恐らく豆に蒸解という現象が起こっていると考えられます、蒸解とは木材のチップから製紙用のパルプを生産する際にアルカリ性の薬剤とキノンなどの助剤を加圧加熱してリグニンを溶解する過程のことですが、ジメチルスルフィドなどの悪臭が発生します。

 

豆は焙煎前半に水分が沸騰して高圧になり、硫黄やカリウムなどのミネラルを含んでおり、さらに珈琲はキノン類の豊富なアカネ科の植物なのでこのような特殊な現象が起こるのでしょう、この蒸解が起こっているため焙煎中一時的に豆が柔らかくなると考えられます、ちなみに紙の蒸解は130°cから150°cで行われるようです、恐らく豆の温度が上がりすぎないうちに十分に時間をかけて水分を抜いておくのが昔からの手法である蒸らしや水抜きの隠れた理由の一つなのでしょう。

 

ほかにも焙煎により生まれる悪臭にはタバコのように刺激的な草木のような青ぐさいにおいのするアセトアルデヒドや強いバターやカッテージチーズ、群れた汗臭さのもとであるジアセチル(日本酒で言う火落ち香)があります、

 

焙煎後の豆にこれらの匂いが残っている場合は大体が焙煎序盤のカロリー不足か温度上昇が早過ぎたかで豆の水抜きがうまく行っていない時に発生します、豆の匂いを嗅いで水抜きの進行を確認する人がいるのはこのためでしょう。

 

ちなみに余談ですが、マンデリンは赤褐色で(褐色物質はクロロゲン酸とショ糖の反応で生じて黄色→赤→黒と反応が進む)炊いた玄米のような硫黄臭がすることがありますが、

最上のマンデリンはうまく焼ければ黒豆のように黒く、挽けばうっすらと藍色(黒豆染めのような色、恐らくポリフェノール類と酸の反応による)でカリンや香木のような香りがします。

 

これも余談ですが緑が濃い生臭い豆は水分の多い豆と言われますが、恐らくこれはクロロゲン酸は塩基性下で酸化してアミン類と反応し緑色になるためです、クロロゲン酸を含むウド、サツマイモ、ゴボウでも緑化現象があります、水洗式などの豆は発酵中にアンモニアが生まれるのでそれが塩基性にするのかもしれません。

 

 12 焙煎豆の保存とブレンド

 

・焙煎豆の保存

 

 焙煎豆の保存は高温、湿度、紫外線の3つを避けなくてはいけません、温度が高いと成分の分解が進み、特に湿度があると加水分解が進んでしまいます(どんなに焙煎しても重量の1%は水分が残り、さらに吸湿性が高いため)焙煎豆はホーロー容器や梅酒瓶などの臭いのない容器にしまうのが最適ですが、光酸化を避けるためにはガラス瓶は実はあまり向いていないのです、ガラス瓶を使うなら日光の当たらない涼しい所に保管しましょう、「先入れ先出し」できる豆用什器もありますが日本の個人店には少々大きいです。

 

焙煎豆はガス抜き期間Degassingが必要です、焙煎コーヒー豆は焙煎後大体3日目(深煎りは前述のように1週間以上熟成が良い)がおそらくちょうどよく香り成分の酸化が進み一番美味しいですがその前に飲むと二酸化炭素が出すぎて抽出効率が落ちることもありどうも味が落ち着かず、深煎りは特に荒い燻り臭さもします、

 

一晩、少しだけ空気にふれるように蓋をゆるくした瓶などに入れて置くと表面の燻り臭が落ち着きます、これは表面についたフェノール類などが加水分解、もしくは酸化するためと考えられます、ベーコンなどの燻製をいぶしたあとに何日か寝かせるのと同じことです、すぐに飲みたい場合はフェノール類とナトリウムを反応させて燻り臭さを取るために食塩を一、二粒加えてください。

 

また二酸化炭素ガスがしばらく放出されるので大量の豆を完全に密閉すると容器が破裂することもあるので注意してください、 ガス抜き用のシールがされている専用の袋もあります。

 

焙煎豆の賞味期限は多孔質構造に詰まっている二酸化炭素の量と抗酸化作用のある油とメラノイジンの量と残っている水分量 などで決まります、ちゃんと焼けていない豆は3日が賞味期限ですが、 ドラム焙煎機 でちゃんと焼いた豆は1週間程度、深煎りは2-3週間程度、極深煎りはそれ以上美味しく飲めます、

 

湿気が多く夏暑い日本では深煎りが理にかなっているわけです、また、焙煎時間を長くしてメイラード反応時間を長く取ると個性と香りが弱くなる反面日持ちする豆になります。





ブレンド

 

 ブレンドづくりで大切なのは、日本人の好みに合うか?使う豆が毎年買えるか?日本に沢山入ってくるか?品質が安定しているか?安定供給されるブラジル産やコロンビア産の豆と相性がいいか?産地が地球温暖化の影響を受けやすい場所に有り値段が上がる傾向にないか?などです。また個人店では全体の品数は鮮度を保つためにも少ないほうが良く、ブレンドの種類もあまり多くならないほうが良いでしょう。

 

また、ブレンドは1杯分のときは60粒ー90粒程度しか使わないので、複雑な、例えば五種類3:3:2:1:1の比率でブレンドしても狙い通りの比率になることはほぼないです、これは確率的な偏りに加えて「ブラジリアンナッツ効果」と言い、粒上の物は容器の中でゆすられているうちに大きいものは浮力があるので上に浮かんできてしまうため、大きめの豆は上に来てしまうのです、そのためカップ売り(抽出した液を売ること、つまり喫茶店など)ではその場で調合するか、ドーザー付きエスプレッソグラインダーのように少なくとも5杯以上一遍に挽いて余ったらパッキン付きの容器にしまっておくほうがいいでしょう、店舗での豆売の際は挽き売り中心になるので大丈夫です。

 

大手の場合は供給が安定するように豆の種類は10種類以上もザラですが、その場合コクは強くなりますが豆の個性はぼやけてしまうので個人店ではそういった複雑なブレンドエスプレッソ向けにすべきでしょう、エスプレッソはイタリアのコクを重視する食文化から生まれたコクを楽しむ飲み物なので、沢山ブレンドしてフィルター珈琲にはやや過剰なほどコクを高めるのは理にかなっているのです、

 

ちなみにイタリアのエスプレッソ国立研究所 (Instituto Nazionale Espresso Italiano)の定める定義ではイタリアンエスプレッソは5種類以上のブレンドからなると定義されており、イタリア人はそれを日に何度も飲みます。

 

その点日本はオリーブオイル・ピッツァ・チーズのコク中心文化ではなく米味噌醤油のコク文化なのでコクと自然な甘みを両方重視するように思います。

 

そのため日本人に合わせた味づくりではコクか甘みを第1を考えます、そこにバニラ香、酸味を感じさせる果実感のある香り、珈琲特有の苦味(コゲではない)複雑な味わいのコク、後味のの軽さであるキレ、上立ち香Aroma(カップから上る香り)含み香Flavor(口の中から鼻に抜ける風味)、返り香(喉から鼻に抜ける香り)After tasteを意識して味を組み立てましょう。

 

もちろん家庭向けと喫茶向けは条件が異なりますが、私は自分で考えた下のブレンド8角形でどの頂点を優先するかを決め(頂点が近いほど両立して反対側はあまり両立しない、個性を出すには頂点3程度まで、返り香は含み香に統合)Flavor WheelやFlavor Treeといった海外の基準も参考にしてブレンドを考えています。        


       

・味覚の訓練

 

 味覚の訓練で一番良いのはまず本場に行き舌を鍛えることです、珈琲の本場である欧州3カ国ドイツ、オーストリア、イタリアを周り本場のカフェ文化と焙煎を学びましょう、

 

とくに必須なのはマックカフェやバルや大衆食堂、現地チェーンなど「普通の店の普通の珈琲」のレベルの高さを知ることです、イタリア、オーストリアなどのエスプレッソ文化圏ではなんとマックカフェにも3連セミオートエスプレッソマシンがあり日本の専門店よりも美味しいです、

 

現在(2020)ドイツ語圏もセミオートエスプレッソマシンが多くなってきていて一杯ずつ作る全自動コーヒーメーカーと業務用市場を二分しています。最近はドイツ語圏でも近年サードウェーブの影響を受けた店が多くアメリカ式の珈琲もあるため、そういうものは日本でも買えるので歴史ある店や高級スーパーで豆を見せてもらい少量を買い(500g単位が多いので量り売りの店で250gずつ豆のままでと伝えて買いましょう)

 

袋と豆をジップロックに小分けにすれば沢山の資料を持ち帰れます、特にイタリアは地域性が強く中小の焙煎会社が沢山あるのでとても良い勉強になりますし、向こうの食文化や水質を知るのも良い経験になります、最近はアラビカ種100%のイタリア産焙煎豆が通販で買えるのでそれを見てみるのも良いでしょう、ただし豆は輸出専用豆ではなく現地向けのものを買うべきです、オセアニアや北米向けの輸出版などはかなり酸っぱく日本人の好みには会いません。

 

個人的にはかなり深くまで煎る南イタリアのKIMBO社の100%アラビカ種のものを一つの味の目安にしています、恐らく容量数トンのペトロンチーニの流動床式式焙煎機を使用しているのではないでしょうか?もちろん焼き方も豆の品質も毎年変わりますが

 

(余談ですがイタリアでは数百キロのドラム式はよく豆が膨らむと言われているそうです、焙煎中に豆に圧力がかかるため豆が固くなるのかもしれません)

 

なんにせよスペシャリティ豆でもない現地のスーパーで売られている数ヶ月前に焙煎して船便で世界を半周してきたものが美味しいエスプレッソになるのには驚きます、イタリアエスプレッソ協会Istituto Nazionale Espresso Italianoから認証を受けた豆を色々とエスプレッソで試してみてください、

実に様々な品質、焙煎があります。

 

13 衛生管理と事故

 

・衛生管理

 

  ときおり汗ばんだ手で冷却を確認する人や素手で焙煎豆を選別する人がいますが、せっかく熱で殺菌されているのですから素手で触るのはやめましょう(温度の確認には放射温度計などを使いましょう)

 

焙煎業も食品加工業です、作業時は手を洗い、エプロンなどをつけ、髪の毛が落ちないように衛生帽などを被りましょう、

 

また生豆を扱う容器と焙煎豆を扱う容器も完全に分けましょう、詳しくは2021年の「食品衛生法等の一部を改正する法律」に準拠した一般社団法人全日本コーヒー協会 全日本コーヒー商工組合連合会編「コーヒー製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を参照してください。

 

・職業病

 

  珈琲焙煎店の職業病は腰痛とアレルギーです、国産小型焙煎機は高さがやや低く、かがんでスプーンを確認する事が多いのと30-60kgもある豆袋を扱うので腰を壊しやすいのです。

 

対策として焙煎機をレンガや架台で高さを上げる(特に足の甲を機械の下にいれられるように設計するとスプーンが見やすい)か豆袋を小分けで扱うなどします。

 

チャフアレルギーはパン屋や蕎麦屋が小麦や蕎麦アレルギーになりやすいのと同じようにチャフの飛沫や排気などが皮膚や粘膜につくことで発症しやすくなるようです、これを経皮感作と呼び、特に肌荒れやアレルギー体質の人は人は注意しなくてはなりません、マスクを付けたり素手で生豆を触るのは避けて手袋などをしましょう、チャフアレルギーで珈琲が飲めなくなった人は聞いたことがありませんが生豆を扱うときにくしゃみが止まらなくなる事はあるようです。

 

・作業の失敗及び故障

 

 主な失敗としては種火の消し忘れ、ホッパーの閉め忘れ、前蓋を開けっ放して次の豆を入れてしまう、冷却機の取り出し口を閉め忘れる、などです、馴染むまではチェックリストを作り指差し確認をしましょう、故障で多いのはベアリングの摩耗で軸が削れてしまう、前半で柔らかくなった豆が前フタの隙間に入り込み固まってしまう、小石などの異物が隙間に挟まるなどです、異常を感じたら落ち着いて電源を切り原因を探りましょう。

 

・事故

 

 事故で多いのは火災、ガス栓を締め忘れてからの点火による爆発、冷却機の回転している部分に腕、手袋や長袖を巻き込まれるなどです、火災の原因としては深煎りしすぎによる豆からの出火や、冷却器やサイクロンのチャフがたまるところや排気系の汚れに火の粉が落ちることです。

何よりこまめな掃除といざという時のための消火設備の備え、火災の際の焙煎機の緊急停止時の手順やチェックリスト作成、訓練などをして事故は必ず起こると考え準備をします。

 

火災の場合すぐに焙煎機の電源を停止して消火に入ります、排気ファンを動かすと酸素が送り込まれ、冷却器に豆を出しても冷却時に燃え上がったり汚れに引火したりするので、ダンパーを閉め排気ファンを止めてホッパーから水を入れます、必ずそばに水と消化器を置きましょう。

 

またダンパーは全閉でも火の立ち消え防止用に必ず空気が流れる隙間があるので排気を完全に止めることはできません、必ず排気ファンの電源を切りましょう。

 

 

 

 14 機械

 

 機械を買うときに大切なのは機械が自分で保守整備できるか?と、その範囲を超えた故障時に迅速に対応してくれるサービスと部品を供給し続けられる会社から買うことです。

どの機械を買うか迷ったときは各分野の最大手企業のロングセラー品を買えばまず間違い有りません(長く使うものなので保証の怪しい中古品はおすすめしません)

 

国産か輸入品かも重要で、大体は日本製の方が値段が安く、修理、部品交換、売却時にも便利です、海外製ではドイツ、スイスが共に単相230V三相400v50Hz、イタリアで50Hz 単相220V、三相380Vに合わせて開発された機器を日本でもできる限り本国の性能に近づけて調整してあるわけですが、日本は100Vで東日本50Hz西日本60Hzに加えて単相100V単相200V三相200Vがあり、設計された国とはかなり違う出力の環境でつかうので海外での評判を当てにはできません、そのため日本での正規代理店とよく相談して実際に使った上で機種を選びましょう。

 

・焙煎機

 

 現在(2021)全国規模で修理に来てくれて中古価格も高い小型焙煎機メーカーの代表は国内では株式会社富士珈機のフジローヤルです、フジローヤルの小型機は一重ドラムと手動ダンパーを備えた焙煎機で排気ファンと冷却ファンを一つにまとめてありレバーで切り替えて使います、

 

半熱風式、直火式、熱風式から選択でき、実用焙煎量は名目量の25%から80%程度(5kgなら4kgまで)ドラムと本体の蓄熱を生かした伝導熱強めの甘みとコクの強い深煎りが得意なロングセラー焙煎機です。

 

ドイツのプロバットの小型機は三相電源のターボファンを使う強力な排気と内側にパンチ穴が空いている二重ドラムが特徴です、実用焙煎量はインバーターオプションなしで最低60%から満量まででほとんど対流熱のみで焼き上げるため豆が非常によく膨らみ、2ハゼ以前の焙煎で特にドイツ式の焙煎で持ち味を出します(1kg機はパンチ穴がなく特性が異なる)

また機種により容量により伝導熱の比率は変わり味も異なります。

 

最初の1台には国産の一重ドラム焙煎機を強くおすすめします、これは夏季の3ヶ月は売上が下がるためこれを補うためにアイスコーヒー用の深煎り豆を売る必要があるためと日本人の味の好みによります、熱風式焙煎機では深煎り豆が一重ドラム半熱風式のようには焼けないのです。

 

イタリアンエスプレッソ専門店を開く場合は伝導熱がプロバットより強くコクの深いイタリアンローストに向くパンチ穴のない熱風2重ドラムのギーセンか間接熱風式のペトロンチーニが良いのではないでしょうか?ただしどのメーカーでも非純正の改造機は買わないほうが良いでしょう、メーカー以外の改造がしてあるとメーカーは修理を受け付けてくれない事が多いためです。

 

また、もし何らかの事情で非常に古い焙煎機や炭素鋼一重ドラム焙煎機を買うときは直火式をおすすめします、性能の欠点は直火で深煎りにすれば補えます。

 

・挽き売り用グラインダー

 

 グラインダーはグラインド臼式、カット式グラインダー、コニカル式、ローラー式があります、日本では一般にグラインド臼が日本のフィルター用向きで「ミル」と呼ばれ(おそらくはHobart Coffee Millに由来する)カット式グラインダーは業務用エスプレッソマシンからメリタ式フィルターか家庭用エスプレッソマシンやモカポット向けとされ、コニカル式はエスプレッソ用に採用されています、ローラーミルは工場用ですが例外的に珈琲店用の超高級機もあります。 

 

ちなみにディッティングやマールクーニックのショップグラインダーは家庭用エスプレッソマシンやメリタ式ペーパーフィルター向けに日本人の感覚からするとかなり細かく500g単位の販売が主流の国で挽くためのものです、エスプレッソ用グラインダー専業のマッツァーや日本のペーパーフィルター用に特化したフジローヤルなど2台買ってもショップグラインダー1台より安いので商売が軌道に乗って卸売をできるようになってから買っても遅くはないでしょう、また業務用エスプレッソ用にはマールクーニックも専用グラインダーがあります。

 

・試飲用コーヒーマシン

 

 個人的には試飲用にコーヒーマシンを買わなくとも大きいフィルターの10杯分(試飲用は半分以下なので実質20杯分)ぐらい作れるもので十分だと思いますが必要な場合は家庭用の機種でも業務用の保証をつけてくれるメーカーもありますのでそちらもご検討ください、提供時にはあまり長時間保温容器に入れたり加熱し続けると味が落ちてしまいますので冷ましたものを味わってもらうかその都度温めたほうが良いと思います。

ただし一度に大量に作ると一杯取りより美味しくなり紙コップで提供すると不味くなります(この理由は『サラームカフィのプロも知らない美味しい珈琲の淹れ方』をご参照ください)




・試飲用エスプレッソマシン

 

 業務用エスプレッソマシンはフルオート、セミオート、マニュアル式がありますがイタリアでは(2020年現在)北部はオーストリアの影響が強いのか1ハゼ後の時間を長く取ったアラビカ豆100%をセミオートマシンで9気圧で抽出する洗練された味わいが主流で、南部は更に深く

煎り、そこにロブスタ種を配合するのが主流です、粉の量はより多く挽目はより細かく抽出量は少ない強烈な味わいで1杯あたりの値段は北部より3割ほど安く、マニュアルのレバーマシンが多く使用され気圧も12気圧と異なります。

 

両者は関西と関東のうどんの出汁くらい異なるものです、お客様の好みで選びましょう。

 

日本には高くても1ユーロ強というエスプレッソを日に5杯も立ちのみで飲むといった文化は無いので立ち飲みカフェバール形式の商売は厳しいでしょう(ほとんどの人はカプチーノエスプレッソドリンクを座って飲むため)

 

また珈琲豆専門店の試飲や販売用に水道直結3連エスプレッソマシンは過剰で必要ないでしょう、電気代と消耗品費、メンテ時間を考えると試飲用には家庭用タンク式全自動エスプレッソマシンで十分です、メーカーに問い合わせれば家庭用でも法人用の保守契約を紹介してくれるところもありますし、忙しくなっても2台にするか1連タンク式セミオートマシンを買えば豆売りだけの店には十分でしょう。

 

『サラームカフィのプロも知らない美味しい珈琲の淹れ方』で詳しく説明しましたがエスプレッソマシンは銅パイプを使用していますが家庭用はアルミパイプなのでかえって業務用より香りが良いくらいです(日本の軟水で使う場合はカルキが付着しづらいのでなおさら)フォームミルクも100均のミルクフォーマーと電子レンジがあればできますからお客様に実演するにはそれでも十分です。

 

ただし、たとえほかの機械がすべてイタリアエスプレッソ協会(INEI)の認証があっても熱風式焙煎機で焙煎した豆でなくては本場のエスプレッソの味にはなりません。

 

 

・排気処理装置

 

排気処理装置は非商業地区や人口密集地では必須です。

排気の処理には大きく分けて炎で煙と臭いを焼き切るアフターバーナー、静電気を使って煙を吸着する電気式排煙処理装置、煙に水を噴射する湿式焙煎排気処理装置、フィルターで油煙を吸着するタイプなど種類があります、1番重要なのは臭いがどれだけとれるのかです、悪臭防止法で定められた嗅覚測定法に基づいた消臭能力の数値をメーカーがちゃんと公表しているところから購入しましょう(実感と法定上の数値は差があります)煙だけ除去して臭いはほとんど取れない機械もあります、静電気式は活性炭フィルターがないと臭いまでは取れませんし、フィルター式もそれだけでは油煙はとれても臭いはほとんど取れません。

 

次に大切なのは焙煎機の排気能力にどれだけ影響が出るかです、処理装置は排気の妨げになりるので排気ファンがついているものが多いですが排気ファンがインバーター制御できるタイプなら焙煎状況やフィルターのつまり具合に影響されにくく焙煎が安定します。

 

最後に導入費用と月々の焙煎量と消耗品代を計算して清掃の手間と時間のコストも計算して機種を決めましょう。

 

・その他

 

 他に必要なものは包装袋を閉じる厚物シーラー、特定計量器認定の計量器、夏場用の業務用クーラーやスポットクーラー、ガス漏れ感知器、あれば良いのは生豆用水分計、珈琲用石抜機などです。

水の相対的な質を調べるにはTDSメーターを使います 、ppm表示のものなら純水にデキャンタージュで空気を水に入れた時の変化があることまでわかります(もちろん水にどういう成分が溶け込んでいるかまでは分かりませんが指標にはなります)また、あくまで相対的な値を出すだけなら珈琲用の濃度計の代わりにもなります。



・究極の小型焙煎機

 

 完全な余談ですが個人的に究極の小型焙煎機というものを考えてみました

 

まずは本体は断熱してありドラムは鋳鉄製一重でドラムの蓄熱量も計測可能、モーターはギヤードモーターでベルトいらず、排気系はフルステンレスのヘルール継ぎ手、バーナーとドラムの間に可動式の断熱用の板があり焙煎中でも全自動で伝導熱と対流熱の比率を変えることができ、4つのインバーターを装備しておりドラム回転と排気ファンと冷却を制御します。

 

排気に2つのファンを使いダンパーを使わずに細かく排気量を調整でき、風速計で排気量を測り、豆温度、排気温度、室温もデジタル記録して、豆温度はテストスプーンの取り出し口に固定された(もしくは持ち手の中に仕込む)放射温度計で実際の豆温度も測定でき、そこにカメラもついて画面に映像を出力してなおかつ煎り上がりのタイミングも記録できるようにします。

さらに、ベアリング軸の中に回転するタイプの放射温度計を内蔵したスプーンをつけて、そこから無線でパソコンにリアルタイムで1回転ごとの豆温度を送信します。

さらにガス圧も電磁バルブで制御されて最後の煎り上げの決定以外はコンピューターで熱伝導のバランス、排気量、ガス圧と3つすべてをあらかじめ設定した通り全自動制御できて、さらに全記録を保存共有できます、操作系はタッチパネルではなくスイッチと手動のダイアルつまみとキーボードとマウスがつかえて覚えやすく、制御ソフトはブラウザー上で動き、なによりボディは高級オーディオ機器の如く美しい…こんな焙煎機があったらいいですね。












15 メーカー情報と参考資料

 

・挽き売り用ミル

 

フジローヤル

 日本を代表する全国展開する企業で代表機は謎のエジプトシールでおなじみR440とR750 で2つとも同じ性能の箱型タイプもあります、なおR220とR440のみグラインド臼とカット 式があります(互換性無し)個人的にグラインド臼はバランスの良い味で甘みと苦みが引き立つと思います。

ディッティングDitting

 スイス製、数々の名店で採用されてきたカット式の最高峰、代表機はKFA-903で一番細かい

 ターキッシュコーヒーにも対応、個人的にカット式は豆の香りと個性がより出るように感じます。

マールクーニックMAHLKONIG

 ドイツ製、代表機はスターバックスを始めとする大手チェーンに採用されているVTA6Sとガテマラで個人店向けでは最大級、ちなみにMahlkönig、Ditting、Anfim、HeyCaféは全てHEMRO GROUPのブランド名です。

ボンマック 

 関西でよく使われるメーカーで代表機BM-570(カット式タイプも有り)

カリタ

 東日本でよく使われるメーカーで代表機はハイカットミルとクリーンカットミルで後者はエスプレッソ用の刃もあります 。 

 

以上他多数

 

・石抜機・選別機

 株式会社サタケ 株式会社富士珈機  

 

・排気処理装置

 株式会社富士珈機 サンタ株式会社  など他多数



・フィルター

 三洋産業 AS樹脂スリーフォードリッパー  おいしい珈琲屋のコーヒーフィルター

 メリタ  クリアコーヒーフィルターシリーズ オリジナルナチュラルホワイト

 有限会社カフェグッズ コットンパワーフィルターシリーズ

 

・ネル生地

 丸太衣料株式会社 吉田織物株式会社 など

 

・包装小売

 ニコノス JF ストックパック 清和パッケージ通販 など

 

・洗剤

 旭化成 フロッシュパフュームフリー 地の塩社 酸素系漂白剤

 

浄水器

 エバーピュアジャパン エバーピュア 三菱レーヨン クリンスイ 

 イオン交換樹脂使用モデルがおすすめ

 

・参考資料

 

論文と記事

・焙煎による蔗糖より有機酸の生成 中林 敏郎 1978

・焙煎による珈琲豆組織の変化 中林 敏郎, 鈴木 邦男 1986

・焙煎によるコーヒー褐色色素の形成順序中林 敏郎, 山田 恭史1987

 上記を含め中村敏郎氏の論文はどれも珈琲に関しての素晴らしい資料です。

・Basic Chemical Reactions Occurring in the Roasting Process Carl Staub 1995

 珈琲豆の1ハゼをバイオマスの熱分解により180℃で起こる事を指摘した文章

 ・Popcorn: critical temperature, jump and sound 

 Emmanuel Virot and Alexandre Ponomarenko 2015

 ポップコーンが180℃調度で跳ねる事を発見したポップコーン研究の金字塔




書籍

 

田口護の珈琲大全 田口護 2003

珈琲 おいしさの方程式  田口護 旦部幸博 2014

珈琲の科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか 旦部幸博  2016

バリスタ・バールマン教本 横山千尋 2018

 

・珈琲団体公式ウェブサイト

 

IIAC JAPAN 一般社団法人国際カフェテイスティング協会-日本公式ウェブサイト

http://coffeetasters.jp/

 

焙煎記録ソフトArtisanとCropster英語公式サイト

https://artisan-scope.org/

https://www.cropster.com

 

Istituto Nazionale Espresso Italiano 国立イタリアエスプレッソ協会公式サイト

http://www.espressoitaliano.org/

 

Coffee Today イタリアの珈琲専門メディア

https://coffeetoday.news/

 

上記サイトは本場のイタリアンエスプレッソの情報や焙煎大会のプロファイルなどが見れてとても参考になりました。

 

この他にも沢山の先輩の著作やウェブサイトから多くの事を学ぶことができました、感謝です。



 16 後書き

 

執筆に3年近くかかりましたが、とうとう書き上げることができて感慨深く思います。

昔から多くの研究者や焙煎師によって特定の温度ちょうどになった時に豆が爆ぜるということは言われてきましたがそれが何度かは

 

180℃185℃197℃というように人によりばらつきがありその化学的な原因についてもキャラメル化やセルロースの分解など諸説入り乱れている状況でした、

 

私はそのことについて細胞壁の性質や赤外線放射温度計の計測に基づいて実用には十分な仮説を提示できたと思っています(形式的にはこれでは学生のレポートでも落第ですが…)

 

とはいえ実際のところ大手メーカーでインスタントコーヒーや缶コーヒーを作られている本職の珈琲焙煎研究者の方々にとってはこれらの知識は周知の事実だったのではないでしょうか?論文や特許ではわざとこのあたりが曖昧にされている気がします。

 

とはいえ私は研究者ではないので本書も根拠の曖昧なところがあることは否めず、間違いも多々あると思いますがどうか御寛容下さい。

 

最後まで御覧いただき本当に有難うございました。

 

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